長年の間、都市で働き、生活をしてきたご夫婦が生活の場を阿蘇の地に移すことになった。阿蘇の雄大な自然のなかでは人間の存在などちっぽけなものである。この自然の中に住みつくとき、人は自然の優しさと同時に、厳しさを受け入れねばならない。この自然を日々の生活のなかで身体的に受け入れ、人と自然-住まう場所-との確かな関係が築かれるとき、生きることへの、また住まうことへの意味と喜びが生まれる。
周囲の雄大な自然に呼応するかのように大地に延びた片傾斜の大屋根に覆われた空間は、雄大な阿蘇の自然に対して、むしろ単純で、力強く、確かな、また身体で感じ取ることができるような木の架構と、素材感のある和紙などの紙や杉板によって仕上げられた天井や壁によって生み出された素朴で親密な空間であり、またそこには壁に穿たれた開口部から取り込まれた自然-雄大な阿蘇の大地の風景やそこに広がる透明性のある空の風景−が内在している。
平面構成については、日々の生活の中でお互いが相手の存在を感じ取ることができるよう求められている。内からアウトデッキへと延びた東西、南北の2つの通路を基軸として各部屋の関係が、また2階のインナ−デッキによって、1階と2階の関係が生み出されている。内なる空間の外延としてのアウトデッキは自然との対話をより楽しく、より豊かなものにする。
外壁の素材は、塗替えなどの補修を避けたいとの要望から、また阿蘇の環境の厳しさから考慮して、一部の塗装した杉板張りを省いて鋼鈑張りとなっており、その色は阿蘇の溶岩石から引用したものである。また、設備おいては太陽光発電という自律したシステムを備えている。
阿蘇の家は、自然との対話を通して、日々の生活の中に、多様で、豊かな物語性のある場面を生み出し、また阿蘇の大地のなかに、その風景の一部として存在している。
構 造
木造